値下げすれば売れる?それとも利益を削るだけ?Amazon Marketing Cloud (AMC)で見える価格弾力性の「正体」と活用法

EC運営において、価格戦略は売上や利益だけでなく、ブランドの印象や市場でのポジショニングにも大きな影響を与えます。しかし、「値下げすれば売れるはず」と安易に判断してしまうと、利益を削るだけでなく、価格競争の波に飲まれる危険性もあります。

「この割引は本当に効果があったのか?」 「利益を削ってまで実施する価値があったのか?」

こうした問いに明確なデータで答えを出してくれるのが、Amazon Marketing Cloud(AMC)です。

本記事では、AMCを活用して価格弾力性を可視化し、「売れる価格」と「無意味な値引き」の境界線をどう見極めるかを、実務で役立つ視点からわかりやすく解説します。


価格弾力性とは?

感覚ではなく、数字で「売れる価格」を導く指標

価格弾力性(Price Elasticity)とは、価格の変動に対して需要(販売数量)がどれだけ変化するかを示す指標です。

たとえば、1,000円の商品を900円に値下げして販売数が2倍になれば、その商品は価格弾力性が高いと言えます。逆に、同じように値下げしても販売数がほとんど変わらない場合は、価格弾力性が低いと判断できます。

このように、価格と需要の関係を数値で捉えることで、感覚ではなく根拠ある価格戦略を立てられるようになります。

値下げや値上げの判断基準に

価格弾力性を活用すれば、次のようなビジネス判断が可能になります。

  • 売上増加が見込める商品を特定:弾力性が高い商品は値下げによる需要の増加が見込まれ、売上の拡大が期待できます。
  • 利益改善を狙える商品を見極め:弾力性が低い商品は、価格を引き上げても販売数が大きく減る可能性が低く、利益率の改善に直結する可能性があります。

つまり、価格弾力性は「攻めの値下げ」と「守りの値上げ」を見極めるための指針となります。


AMCによる価格弾力性

AMCは、Amazon上での購買行動や広告接触、注文情報などをイベント単位で詳細に分析できるデータクリーンルームです。とくに価格戦略の分析において、AMCがセラーセントラルやベンダーセントラルで提供されるレポートに対して優れている点は次の通りです。

注文単位での詳細なデータ取得

従来のAmazonのレポートでは、ASIN×日別といった集計データしか取得できず、平均販売単価をベースとした大まかな傾向分析しかできません。一方AMCでは、注文ごとのログデータに基づいて、注文単位で実際の購入単価を把握できます。そのため、価格の微細な変動が売上に与える影響をより高精度に分析することが可能です。

定期便のリピート注文を除外可能

Amazonでは、「定期おトク便」の初回注文は自動的にセール割引の対象になる一方で、2回目以降の注文では定価販売になります。そのため、定期便のリピート注文が価格弾力性の分析に混在すると、割引の効果を正しく評価できなくなる恐れがあります。

AMCの購買ログには注文タイプ(注文、定期便の初回注文、定期便のリピート注文)が含まれるため、定期便のリピート注文を除外して価格弾力性の分析をおこなうことができるため、より純粋な値引き効果の測定が実現できます。

新規と既存顧客の反応を分離可能

AMCにおけるNTB(New-to-Brand)フラグを活用することで、新規顧客と既存顧客を分けて価格弾力性の分析をおこなうことができます。一般的に、新規顧客は価格に対して敏感で、値引きによる購買促進効果が高い傾向があります。彼らは商品やブランドに対する情報が限られているため、価格が購入意思決定に与える影響が大きくなりやすいのです。

一方、既存顧客は過去の購買体験やブランドへの信頼感を基に意思決定を行うため、多少の価格変動では反応が大きく変わらないケースが多く見られます。とくに、定期的に購入しているロイヤルユーザーにとっては、価格よりも利便性や安定供給の方が重視されることもあります。

セールを実施する主要な目的は新規ユーザーの獲得であることが多いので、新規ユーザーの価格弾力性が最も高くなる割引率を分析することが重要です。


価格弾力性の3つの基本指標

1. 割引率(Discount Rate)

販売価格と定価の差をパーセンテージで示したもの。たとえば、定価1,000円の商品が800円で販売されていれば、割引率は20%です。どの程度の価格インセンティブが与えられたかを把握する指標です。

2. 需要変化率(Demand Change)

割引適用時の販売数と、通常価格時の平均販売数を比較し、需要の変化をパーセンテージで算出します。

例:通常価格での平均日販が100個 → 値引き後150個 → 需要変化率は50%

3. 価格弾力性(Price Elasticity)

価格が1%変化した際に、需要が何%変化したかを示す比率で、需要変化率 ÷ 割引率で計算します。

例:需要変化率50%、割引率10% → 価格弾力性は5

この値が高いほど、価格に対する需要の反応が大きいことを意味します。


注意:価格弾力性が高くても安心できない「アンカリング効果」の影響とは

価格弾力性が高く出たとしても、その背景によっては注意が必要です。特に、頻繁なセール割引が顧客の価格認識を歪めてしまう「アンカリング効果」には警戒が必要です。

この状態では、価格を定価に戻すと売上が大きく落ち込むため、常に割引が必要となり、利益率が悪化します。このような商品も数値上は価格弾力性が高く出ますが、実態としては割引依存体質になっており、健全とは言えません。

AMCではこうした商品の特性を定量的に捉えることができるため、価格弾力性の「高さ」をそのまま好意的に解釈するのではなく、非セール期の日販の推移など多面的に分析することが重要です。


価格戦略の最適化

セール対象商品の最適化

弾力性の高い商品に絞って割引を適用することで、最小限の値下げで最大の売上効果を得られます。限られた販促費用の中でROIを最大化するためにも、AMCによるデータの裏付けが有効です。

AMCでは、どの商品がどの程度価格に反応するかを正確に把握できるため、一律のセールではなく“効果が出るものだけ”を対象にする施策が可能になります。また、短期的な値下げが収益にどれだけ貢献するかも数値で可視化できるため、セールの成否を事後に検証するうえでも活用価値が高いです。

カテゴリ・ブランド別の感度把握

カテゴリやブランドごとの弾力性を分析すれば、どの領域が価格に敏感かが見えてきます。たとえば、日用品は価格に敏感で、家電はそうではない、といった傾向を把握できます。

AMCの分析を通じて、たとえば同じジャンルの中でも高価格帯と低価格帯で弾力性が異なるなど、細かな違いも見えてきます。これにより、「割引を積極的にかけるべきカテゴリ」と「価格より価値訴求が重要なカテゴリ」を明確に分け、施策の精度を高めることができます。

値引きの見直しによる利益改善

過度な割引が常態化している商品は、価格を戻しても販売が大きく落ちないケースがあります。AMCを活用すれば、そのような商品の候補を明確に特定でき、利益率の向上につながります。

価格を適正水準に戻すことで、仮に販売数が若干減少したとしても、粗利率が大きく改善される場合があります。AMCのイベント単位のデータからは、過去の割引が需要にどれだけ影響したかが詳細に読み取れるため、「値引きしすぎ」に気づくきっかけにもなります。


データで見極める賢い価格戦略へ

価格戦略は、もはや勘や経験ではなく、データに基づく意思決定が求められる時代です。AMCを活用することで、どの商品を、いつ、どれくらい値下げすべきかを定量的に判断することができます。

価格弾力性という指標は、売上と利益を両立させる“羅針盤”です。無駄な値下げを避け、利益を守りながら成長を目指す価格戦略を実現するために、まずはAMCで自社商品の価格感度をチェックするところから始めてみましょう。

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