Amazonで商品を販売する企業にとって、「この商品を買った人は他にどんな商品を買っているのか?」という問いは、日々の売上を超えて、顧客との長期的な関係性を築くための出発点と言えるでしょう。単に売れ筋を知るというよりも、その“次の購買行動”を予測できるようになることで、ブランドの成長戦略に不可欠なマーケティングアプローチが実現します。
そして何より、この視点はLTV(顧客生涯価値)を高めるうえでも極めて重要です。LTVを高めるには、新規顧客を単発購入で終わらせず、2回目・3回目と自然に購買を重ねていってもらう仕組みを整える必要があります。併売分析を通して「どの導入商品が長期的なリピートにつながりやすいか」「どの商品を起点にすればLTVが伸びやすいか」を把握できれば、より戦略的な導線設計が可能になります。
こうした“お客様が次に求めているもの”を読み解くための手法が併売分析です。この分析は、顧客理解を深める上で不可欠な武器となり、商品企画、広告戦略、さらにはECサイト上のレコメンド表示にまで幅広く活用することができます。
本記事では、そんな併売分析について、AMC(Amazon Marketing Cloud)を活用した具体的な手法や事例を交えながら、どのように日々のマーケティング業務に活かせるのかをわかりやすく解説していきます。
目次
そもそも、併売分析にはどんなパターンがある?
併売分析は、観点の仕方によって大きく3つに分類できます。
① マーケットバスケット解析
同じ注文内に含まれる商品の組み合わせを分析し、「何と何が一緒に買われるか」を見つける分析法です。この手法は簡単な分析である上、レコメンド商品を探すのに有用です。また、購入タイミングが重なることで同時に訴求できる商品群を特定しやすいというメリットもあります。
実店舗のスーパーマーケットやドラッグストアといったリアルチャネルでは、バスケット分析の効果が非常に高く、購買行動が「同時性」に強く依存しているため、商品の陳列配置やプロモーション設計にも直接的に活かされてきました。
ただし、Amazonで自社商品のみを対象とした複数商品の同時購入はデータ量が少なく、ある程度の同時購入注文数があるブランドでなければ、明確な傾向を見つけにくいという課題もあります。
② 期間併売分析
ユーザーが過去の数ヶ月にわたり、どのような異なる商品を一緒に購入しているかを分析する方法です。ここでは同一商品のリピートではなく、異なるアイテム同士の組み合わせに注目し、「併せて買われる商品ペア」や「互いに関連性の高いセット構成」を導き出すことを目的とします。
時間差があっても一人のユーザーによって繰り返し組み合わせられている商品群を抽出することで、カテゴリー内外を問わず、クロスセルの起点となる商品を特定することが可能です。たとえば、ベビー用ボディソープと保湿ローション、あるいは洗顔フォームとシートマスクのように、用途や使用タイミングが異なっても「一緒に使われやすい組み合わせ」を知ることができます。
このような分析結果は、カテゴリをまたいだレコメンド提案や、複数アイテムを束ねたスターターキット・お試しセットの企画に直結します。さらに、ユーザーごとの購買傾向に基づいて内容をカスタマイズしたバンドル商品を提案すれば、購入単価の向上や在庫の有効活用にもつながります。
結果的に、単品ごとの販売戦略では見えなかった「価値ある組み合わせ」の発見が、新たなクロスセル施策の起点となり、LTVの底上げを図る上で大きな効果を発揮することが期待されます。
③ 購入シーケンス分析
「新規の購入者が、その後どの商品をどんな順番で購入しているか」を時系列で追う分析方法です。この手法では、個々のユーザーがブランドとどのように関わりを深め、どのタイミングで商品ラインナップに触れているのかを可視化することができます。
ブランドにとって、「商品Aではじめて入口した人が、最終的に商品Dまでたどり着く」といったジャーニーを見通すことで、各段階で最適な情報提供や販促アクションを設定でき、顧客接点ごとに緻密な戦略を展開することが可能になります。また、この過程で離脱が発生しやすい箇所や、購買が加速するタイミングを特定することで、より精緻なナーチャリング施策も立てやすくなります。
この分析は、単なる“売れ筋”を捉えるためのものではなく、ユーザーがどのようにしてブランド内の複数商品を横断的に体験していくかという“育成ストーリー”を描くための基盤となります。結果として、ユーザーとの関係性をより長期的かつ持続的なものに育て、LTV最大化戦略の中核となる視点を提供してくれるのです。
AMCを活用した購入シーケンス分析
AMCを活用した購入シーケンス分析では、New-To-Brand(NTB)フラグを利用します。NTBフラグとは、あるユーザーが過去365日以内に該当ブランドの商品を一度も購入していなかった場合に、購入時に「新規顧客」としてフラグが立つ仕組みです。これにより、既存顧客と新規顧客を明確に区別でき、後続の商品購買動向を新規顧客にフォーカスして分析することが可能になります。
この情報を活用することで、「ブランドとの最初の接点は何だったのか」「その後どのようにブランド内の他商品へと広がっていったのか」といった購買ジャーニーを可視化するための起点を設定することができ、シーケンス分析において極めて重要な役割を果たします。
注意点として、AMCに保持されるデータは「過去13ヶ月」に限定されています。このため、2年以上にわたる長期的な購買傾向の変化や、ブランド育成の効果を時間軸で検証するような中長期の分析には向いていません。
分析結果のレポートイメージ
以下は、AMCのクエリを用いて抽出した購入シーケンスの出力例です。ユーザーが新規でブランドに接触した後、どのブランド商品をどのような組み合わせで購入しているかをカテゴリー単位で集計したものです:
商品カテゴリシーケンス例 | 購入者数 | 販売個数 | 売上金額 | シェア(全NTB比) |
---|---|---|---|---|
1.洗顔 → 2.化粧水 → 3.乳液 | 142人 | 381個 | ¥1,243,000 | 14.2% |
1.洗顔 → 2.乳液 | 96人 | 202個 | ¥715,400 | 9.6% |
1.化粧水 → 2.美容液 → 3.クリーム | 85人 | 276個 | ¥998,600 | 8.5% |
1.美容液のみ | 64人 | 64個 | ¥416,000 | 6.4% |
その他 | 613人 | 1,941個 | ¥6,745,000 | 61.3% |
このように、特定カテゴリの組み合わせがどれだけのユーザーに購買されているか、また売上やシェアといったビジネスインパクトが明確になることで、戦略的な施策立案につながります。特に、構成比が高い組み合わせを起点にクロスセル施策やセット商品化を検討することで、効率的なLTV向上が可能になります。
購入シーケンス分析から導く具体的アクション
1. ゲートウェイ商品の発見と広告強化
AMCを通じたシーケンス分析では、「新規購入者の入口になっている商品(ゲートウェイ商品)」を特定することが可能です。このゲートウェイ商品は、その後の複数商品へのクロスセルにつながる可能性が高く、ブランド全体のLTV向上に大きな影響を与える重要な存在です。
このような商品が特定できた場合は、Amazon DSPやスポンサープロダクト広告においてその商品の出稿比重を高め、流入強化を図るのが有効です。ゲートウェイ商品に予算を集中させることで、購入者全体の“ブランド育成パイプライン”の入り口を拡大し、後続商品の自然な購買誘導へとつなげる戦略が実現します。
2. リターゲティング広告の精緻化
シーケンス分析により、初回購入者が次に購入する可能性の高い商品カテゴリが明確になれば、そのデータをもとにAmazon DSPやスポンサー広告で精緻なリターゲティング広告を配信することが可能です。たとえば、洗顔料を購入したNTBユーザーに対して、1〜2ヵ月後に関連商品の保湿クリームや化粧水の広告を配信することで、自然な流れでクロスセルを促進できます。
3. Amazon内の商品セット提案・バリエーション登録
組み合わせの傾向が明らかになった商品同士を、Amazonのバリエーション機能や、カタログのセット商品として再構成します。スターターセットやカテゴリ横断のギフトセットとして訴求することで、単品購入では得られなかった購入動機を創出し、平均注文単価(AOV)やカート転換率の向上が期待できます。
4. 商品ページ最適化:A+コンテンツによるクロスセル訴求
分析で得られた人気の併売組み合わせに基づき、A+コンテンツを活用して関連商品の画像や紹介文を商品ページ内に掲載し、ユーザーの注目を集めながら自然な形でクロスセルを促すことが可能です。A+はブランド登録済みのセラーが利用できるカスタマイズ機能で、視認性の高いエリアに商品間の関連性を訴求できるため、併売傾向を踏まえた販促が非常に効果的です。
5. クーポン・プロモーション連携
シーケンス上で関連度の高い商品同士に対して、同時購入時の割引やクーポンを設定することも効果的です。Amazonの「この商品と一緒に買うとお得」機能を活用し、分析結果に基づく組み合わせ商品を対象としたプロモーションを設計することで、クロスセルの成果を高めることができます。イミングで、第三者のポジティブな体験を提示することで、背中を押すナッジとして機能します。
まとめ:AMCで顧客理解を深め、LTVを伸ばす
併売分析、とりわけ購入シーケンス分析は、単なる購買データの確認ではなく、「顧客がどう育っていくか」を知るためのツールです。
AMCによって得られる深いインサイトを、Ubun BASEなどの自動化ツールと組み合わせることで、分析の成果をすぐに施策へと落とし込むことが可能になります。
これからのAmazon販促においては、「売れた理由」「次に買われる商品」「そのタイミング」を可視化し、顧客ごとに“最適な次の一手”を提供することが、LTV最大化の鍵となるはずです。

株式会社ウブン PdM of UbunBASE
2007年に株式会社オプトに入社し、金融業界向けインターネット広告の提案・運用を担当。株式会社電通に出向し、大手ナショナルクライアントのデジタルメディア戦略の立案と実行に従事。2012年にオプトに帰任後、DSPや広告効果測定ツールのプロダクトマネージャーを歴任。グループ会社のスキルアップビデオテクノロジーズでは取締役として動画広告のアドテクノロジー事業を推進。2020年に株式会社ウブンに参画し、Amazon広告の自動化ツール「Ubun BASE」を立ち上げ、開発とマーケティングを統括。