近年、NetflixやPrime Video、TVerといったOTT(Over The Top)メディアの普及により、私たちの生活スタイルは劇的に変化しました。リビングのテレビでネット動画を楽しむことは、もはや日常の風景の一部となっています。
これに伴い、企業のマーケティング担当者様にとっても、Amazon DSPを経由した動画広告のターゲティング配信は、ブランドの認知拡大や購買意欲の醸成において、欠かせない戦略の一つとなっているのではないでしょうか。

しかし、動画広告の運用に力を入れれば入れるほど、このような「モヤモヤ」とした疑問に直面することはありませんか?
「動画広告に予算を投じているのに、管理画面上のコンバージョン(CV)数が少なすぎる気がする……」 「TVerなどの有力なメディアに配信しているのに、ビュースルー効果が正しく計測されていないのではないか?」
その直感は、正しいかもしれません。実は、Amazon DSPの標準的なレポート機能だけでは、動画広告が持つ本来の実力や貢献度を、完全には捉えきれていない可能性があるのです。
本記事では、動画広告における「ビュースルー計測の深い課題」と、その技術的な背景にある「VAST仕様の壁」、そしてそれらを解決するための切り札である「Amazon Marketing Cloud (AMC)」活用法について解説します。さらに、専門的なSQLの知識がなくてもAMCのパワーを最大限に引き出せるツール「Ubun BASE」についてもご紹介します。
目次
1. Amazon DSP動画広告における「計測の壁」とは?
Amazon DSPを活用して動画広告を配信する際、多くのマーケターが直面するのが「広告が本当に視聴され、その結果として購買に繋がったのか?」という効果測定の難しさです。
現在の標準的な計測環境には、動画広告の価値を正当に評価するのを阻む、以下の3つの大きな「壁」が存在します。
① 「ラストタッチモデル」による貢献度の過小評価
Amazon DSPの標準的な効果測定は、基本的に「ラストタッチ(最後に接触した広告)」を重視するモデルを採用しています。これをサッカーの試合に例えてみましょう。
- 動画広告が素晴らしいスルーパスを出す(認知・興味喚起)。
- ユーザーが商品詳細ページを訪れるが、一旦離脱する。
- 後日、追いかけてきたDSPのバナー広告(リターゲティング配信)をクリックしてゴール(購入)する。
この場合、ラストタッチモデルでは「ゴールを決めたバナー広告」だけが評価され、「決定的なパスを出した動画広告」の手柄はゼロになってしまうことがあります。動画広告はカスタマージャーニーの前半(認知段階)で効果を発揮しやすいため、刈り取りを目的としたリターゲティング広告などに「ラストタッチ」を奪われ、不当に評価が低く見えてしまう傾向があるのです。
② TVerなどで発生する「ビュースルー計測漏れ」
ここは少しテクニカルですが、非常に重要なポイントです。Amazon DSPでは、「ビューアブルインプレッション(視認可能な状態で表示された)」というシグナルが発生して初めて、ビュースルー(広告を見た後の行動)指標が集計される仕組みになっています。
しかし、TVerなど一部の主要なメディアでは、仕様上この「ビューアブルインプレッション」のシグナルがAmazon DSP側に正しく返ってこないケースがあります。その結果、ユーザーは確実に動画広告を見ているにもかかわらず、Amazon DSPの管理画面上では「誰も見ていない(ビュースルーCVなし)」という扱いになってしまうのです。
③ Fire TVにおける「インプレッション」と「再生開始」の乖離
Fire TVなどのコネクテッドTV端末では、広告枠が読み込まれた時点(インプレッション)から、実際に動画が再生開始されるまでの間に、約50%もの「剥落(離脱)」が発生することがあるのをご存知でしょうか。
これは、「テレビをつけた瞬間に裏側で広告枠はロードされたが、ユーザーがすぐに別のアプリを立ち上げた」などのケースで起こります。もし、「インプレッション」を基準に効果を計測してしまうと、実際には動画が始まってすらいないユーザーまで母数に含めてしまうことになり、正しい効果測定ができなくなります。
2. なぜメディアによって「見た」の定義が違うのか? 〜VAST仕様の深層〜
「動画が再生されたら『見た』で統一してくれればいいのに!」と思われた方も多いでしょう。なぜこのようなズレが起きるのか、その根本原因は動画広告配信の標準規格であるVAST(Video Ad Serving Template)の仕様そのものにあります。
動画広告配信の仕組み:Ad ServerとVideo Playerの対話
動画広告は、IAB(Interactive Advertising Bureau)が策定したVASTというプロトコル(通信規約)に基づいて配信されています。Amazon DSP(Ad Server)は、メディア側のVideo Playerに対して「この動画広告を再生してください」という指示と共に、VAST XMLという指示書を送ります。この中には、広告の効果を計測するための「トラッキングURI(ビーコン)」が定義されています。
VASTで定義されている主要なイベント
VASTの仕様として明確に定義されており、業界で共通認識が取れているイベントには以下のようなものがあります。
- Impression(インプレッション)
- 定義: 広告の最初のフレームが表示された、あるいは表示される準備が整った時点。
- 課題: Fire TVなどの一部環境では、動画再生の前段階(コンテナロード時)で発火する場合があり、実際の再生(Start)までにユーザーが離脱すると大きな乖離が生まれます。
- Tracking Event “start”(動画再生開始)
- 定義: 動画広告の再生が実際に0秒地点から開始された時点。
- 特徴: ユーザーが実際に動画を見始めた瞬間を捉えるため、Impressionよりも「視聴の実態」に近い指標です。
- Tracking Event “complete”(動画視聴完了)
- 定義: 動画広告が最後まで再生された時点。
「ビューアブルインプレッション」はVASTの仕様外?
ここで最大の問題となるのが、「ビューアブルインプレッション(Viewable Impression)」です。実は、「ビューアブルインプレッション」というイベントをいつ発火させるかという明確な判定基準(ロジック)は、VASTのコア仕様の中には厳密には存在しません。
VAST 4.0以降で計測用の箱(要素)自体は用意されましたが、「画面の何%が何秒表示されたらビューアブルとみなすか」という判定ルールそのものは、各メディアのプレーヤー(Video Player)の実装や解釈に委ねられている部分が大きいのです。
この「仕様の曖昧さ」が、以下のような事態を引き起こします。
- 判定基準がバラバラ: あるプレーヤーは厳密なIAB基準で判定するが、別のプレーヤーは独自の基準で判定する。
- そもそも計測しない: TVerなどの一部メディアでは、プレーヤーの仕様やポリシーにより、Amazon DSPが期待する形式でのビューアビリティシグナルを送信しない(機能として実装していない)。
つまり、Amazon DSP側でどれだけ厳密に管理しようとしても、配信先のプレーヤーからその基準に合致するシグナルが返ってこなければ、Amazon DSPはそれを検知・集計することができないという構造的な問題があるのです。
3. 解決策:Amazon Marketing Cloud (AMC) で独自のクエリを書く
ここで登場する救世主が、Amazon Marketing Cloud (AMC) です。
Amazon Marketing Cloud (AMC) は、プライバシーに配慮した安全な環境(データクリーンルーム)で、Amazonの持つ膨大な広告データやイベントデータにアクセスし、SQLという言語を使って自由に分析ができるツールです。
AMCを使えば、Amazon DSPの標準レポートの縛りから解放されます。具体的には、以下のような柔軟なカスタマイズが可能になります。
リーチ(到達)の定義をVASTイベントベースで変更する
VASTで定義が曖昧でプレーヤー依存の「Viewable Impression」ではなく、VASTで明確に定義されておりユーザー行動として確実な「video_start(動画再生開始)」や「video_complete(動画視聴完了)」というイベントをリーチの基準として設定し直すのです。
これにより、TVerのようにビューアブルインプレッションが発生しない媒体でも、「video_start」のイベントをAMC上で拾うことで、正しくビュースルー効果を計測できるようになります。また、Fire TVの「Impression」と「Start」の乖離問題も、「Start」した人のみを対象にすることで解決できます。
しかし、ここで新たな壁が立ちはだかります。「AMCを活用するには、Amazonのデータに精通したうえで上で、高度なSQLの専門知識が必要」ということです。
4. Ubun BASEなら専門知識不要!「動画広告パフォーマンス」レポート
「SQLなんて書けない……」という方もご安心ください。Amazonレポート生成自動化ツール「Ubun BASE」には、まさにこの課題を解決するために特化した「動画広告パフォーマンス」レポートが標準搭載されています。

Ubun BASEを使えば、難しいコードを一切書くことなく、クリック操作だけで Amazon Marketing Cloud (AMC) のデータを活用した高度な動画分析が可能になります。Ubun BASEが提供する、動画広告の真価を引き出す4つの機能をご紹介します。
特徴①:再生開始・視聴完了ベースでの正確な計測
このレポートでは、ビュー(広告接触)の定義として、以下の2つから選択可能です。
- 動画再生開始 (Start)
- 動画視聴完了 (Complete)
これにより、メディアごとのVAST実装の違いや、Fire TVでのImpression剥落を考慮した、実態に即したビュースルー計測(DPVやCV)が実現します。「管理画面ではCVゼロだったのに、実はこんなに売れていた!」という発見がここから生まれます。
特徴②:「リニアタッチ」モデルの採用
Ubun BASEの動画レポートでは、ラストタッチではなく、「リニアタッチ(均等配分)」のアトリビューションモデルを採用しています。
動画広告においては、1回見せただけで即座に購入に至ることは稀です。一定以上のフリークエンシー(接触頻度)をかけてブランドを刷り込むことが重要です。リニアタッチを採用することで、購入に至るまでの全ての接触ポイントを公平に評価し、動画広告の「アシスト貢献」を可視化します。

特徴③:ルックバック期間を自由に設定可能(14日の壁を打破)
Amazon DSPの標準レポートでは、コンバージョン計測のルックバック期間(広告を見てから購入するまでの期間)が「14日間」で固定されています。しかし、動画広告は認知目的で配信されることが多く、実際にユーザーが購入に至るまでには14日以上の検討期間を要することも珍しくありません。
Ubun BASEの動画広告パフォーマンスレポートでは、このルックバック期間を自由に設定可能です。例えば「30日」や「60日」に設定することで、動画広告を見てからじっくり検討して購入に至ったユーザーの成果も漏らさず評価できるようになります。
特徴④:日次更新で「今」のアクションに繋げる
「詳細なレポートはキャンペーンが終わってから」と考えていませんか? Ubun BASEのブランドレポートは、広告配信終了日+ルックバック期間まで、日次でレポートを更新し続けます。
キャンペーン終了後に「あの時こうしておけばよかった」と振り返るだけでなく、配信期間中にリアルタイムに近いデータを確認できます。これにより運用調整やアロケーション判断を、キャンペーン進行中に機動的に行うことができるのです。
5. まとめ:Amazon Marketing Cloud (AMC) で動画広告の真実を知ろう
OTTメディアの隆盛により、動画広告の重要性はますます高まっています。しかし、その効果をAmazon DSPの標準レポートだけで判断してしまうと、VAST仕様に起因する計測のズレや、固定されたルックバック期間により、せっかくの投資チャンスを逃してしまうかもしれません。
- Amazon Marketing Cloud (AMC) を活用すれば、メディアごとのプレーヤー実装の違いを乗り越え、柔軟な定義で効果測定が可能です。
- Ubun BASE を使えば、SQLの知識がなくても、クリック一つで「動画再生開始」や「視聴完了」を基準とした、精度の高いレポートを作成できます。
「動画広告の効果が見えにくい」「もっと正確に評価して予算配分を最適化したい」とお悩みの方は、ぜひ Amazon Marketing Cloud (AMC) と Ubun BASE の活用を検討してみてください。今まで隠れていた動画広告の価値が、きっと見えてくるはずです。

株式会社ウブン PdM of UbunBASE
2007年に株式会社オプトに入社し、金融業界向けインターネット広告の提案・運用を担当。株式会社電通に出向し、大手ナショナルクライアントのデジタルメディア戦略の立案と実行に従事。2012年にオプトに帰任後、DSPや広告効果測定ツールのプロダクトマネージャーを歴任。グループ会社のスキルアップビデオテクノロジーズでは取締役として動画広告のアドテクノロジー事業を推進。2020年に株式会社ウブンに参画し、Amazonレポートの自動化ツール「Ubun BASE」を立ち上げ、開発とマーケティングを統括。











